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高松高等裁判所 昭和29年(う)61号 判決

控訴人 被告人 森田董

弁護人 阿河準一

検察官 高橋道玄

主文

原判決を破棄する。

本件公訴を棄却する。

理由

被告人の控訴趣意及び弁護人阿河準一の控訴趣意は末尾添付の通りであるが、

まづ被告人の控訴趣意について、

本件起訴状に依れば被告人は昭和二八年一二月一四日午前九時頃徳島県三好郡箸蔵村の真言宗別格本山箸蔵寺に於て住職佐藤盛尊保管の軸物三幅、硯箱一個、床の置物一個、座布団二枚を窃取したものとして同月二六日善通寺簡易裁判所に起訴せられたものであり又記録に依れば被告人は該事件につき昭和二九年一月一三日同裁判所に於て有罪判決の言渡を受けこれに対し本件控訴を申立たことが明らかである。然るに被告人は別に同年一月二九日他の窃盗事実(本件窃盗より前になされた窃盗)につき高松地方裁判所丸亀支部に常習累犯窃盗として起訴せられ更に同年二月一三日別の窃盗の事実(本件窃盗事実より前になされた窃盗)につき同支部に常習累犯窃盗として追起訴せられ同支部は両者を併合審理の上同年二月二三日常習累犯窃盗として有罪判決を言渡し、この判決に対しても被告人から適法な控訴の申立があり、現に当裁判所に係属中であることは本件記録並に当庁昭和二九年(う)第二五一及び二五二号常習累犯窃盗被告事件の記録に依つて明かである。ところで常習累犯窃盗は窃盗行為の個数に拘らず本来一罪を構成しその公訴提起の効力は当該事件の事実審理の可能な限度即ち第一審判決言渡までの行為の全部に及ぶものであるから常習累犯窃盗の起訴あるに拘らず更に常習累犯窃盗の追起訴をなすことの違法なることは勿論或る窃盗行為につき先に単純窃盗の起訴があつても少くもその窃盗より前になされた窃盗につき更に常習累犯窃盗の起訴があるときは単純窃盗として起訴せられた窃盗は当然常習累犯窃盗の起訴の範囲に包含せられ、茲に二重起訴の関係を生ずるから、単純窃盗の公訴は棄却せられるべきものと云わなければならない。

本件につき右の関係を検討すると本件窃盗の犯時は昭和二八年一二月一四日にして別件昭和二九年一月二九日附第一の起訴の窃盗は同年一〇月八日から同年一二月上旬に亘る八回又別件昭和二九年二月一三日附起訴の窃盗は昭和二八年七月下旬から同年一二月九日までの二十八回に亘るもので、以上の窃盗は順次連続してなされたものであり本件窃盗はその最後のものであることが認められるからこの窃盗は別件第二の起訴による窃盗と共に別件第一の起訴による公訴の範囲に包含せられることが明らかである尤も冒頭認定の如く別件第一の起訴により公訴の提起せられたのは本件単純窃盗の公訴の提起後なることは勿論その判決の言渡後であるから原審としては固より本件単純窃盗の公訴を棄却するに由なかりしことは之を諒とするに余りあるけれども本件と別件とは控訴の結果共に控訴審に繋属した以上起訴の前後に拘りなく単純窃盗の本件公訴は之を棄却すべきものと云わなければならない、故に論旨は結局理由がある。

よつて弁護人の量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条、第三七八条第二号に則り原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従つて直ちに判決するが本件がその公訴を棄却すべきものであること前段説明の通りであるから同法第四〇四条、第三三八条第三号に則り主文の通り判決する。

(裁判長判事 三野盛一 判事 谷弓雄 判事 合田得太郎)

被告人の控訴趣意

昭和二十九年一月十三日善通寺簡易裁判所に於て窃盗罪に依り懲役一年に処せられました該判決に対し不服控訴申立てたる趣意は、即ち昭和二十八年十二月二十六日同区検察庁に於て起訴提起にかかわるものにて該提起は被告人犯行総数三十七件中の唯一件のみを以てなされ公判に付され判決となつたもの故であります。

昭和二十八年十二月二十六日同庁にて提起なされる同日時間的にはそれ以前には自供に依る被告人の犯行一覧表なる謄写刷小冊には取調警察署より同検察庁に届けられ犯行の詳細は明らかにされてゐたものであります。犯行場所が中国、山陰、四国七県下の広きにあつた為と恰も新旧両正月を差控へてゐた為調書作成容易ならず調書未着の理由を以て昭和二十九年一月十三日事後の犯行唯一件のみを以て公判となり判決となつたものであります。従つて残余の三十六件は追つて昭和二十九年一月二十九日及二月十三日丸亀検察庁に於て起訴提起され同年二月十六日公判を終つたものであります。本事件被告人は自供をしたものであり些も供述の拒否、欺瞞をなさず、其の他捜査上必要とする何物をも拒まず専心早期終結を計つたものであります。併し乍ら事意に反し当然であるべき併合がなされず分割され遂に二つの公判となり終つたものであります。空しく犯数を重うすることを誠に心外事と考へ且又如上による刑の軽減をされん事を切に懇願するものであります。依つて不服となし併合されん事を希み茲に控訴申立を為したものであります。

(弁護人の控訴趣意省略)

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